ITの深化の基盤を招く情報学研究
A03: 人間の情報処理の理解とその応用に関する研究
平成15年度
研究代表者:
水内 郁夫
東京大学大学院情報理工学系研究科
・
科学技術振興特任教員
(@戦略ソフトウェア創造人材養成プログラム)
産業現場での活動が主だったロボットも、 近年オフィス・病院や家庭などの人間のいる環境での活動が期待されている。 ヒューマノイドは人間と共生する情報システムとして こうした期待にこたえることをめざして、研究が盛んである。 しかし、既存のヒューマノイドのボディは硬く、 動きも人間や動物に比較すると硬い印象があり、 人間の生活の場での活動は難しい。 また、行動の実現や環境把握において、 幾何学的・解析的な手法とモデルが用いられる事が多い。 一方、人間はこうしたモデルを無意識に持った上に、 「直感的」とでも言うべき手法・モデルを用いている。 さらに成長や疲れなどにともない常に変化し続ける手法・モデル(情報処理系)が 神経系において構成されている。 上記のような人間にモデルの特徴を有する情報システムを構築することができれば、 ヒューマノイドの身体構造として人間のように柔らかく超多自由度な構造を用いることができ、 人間と活動の場を共有することができるようになる。 代表者らはこのような考えに基づき、 人間の身体構造に近い柔軟性と超多自由度を目指したヒューマノイドを開発してきており、 このような身体構造を扱う情報処理系の構築が現在の課題のひとつになっている。
本研究では、次のようなアプローチにより、上記に述べたような 柔軟性と多自由度を有する身体構を扱う情報システムの構築を行う。
入出力情報の抽象化の方法に関しては、文部科学省科学研究費補助金 特定領域研究 「ITの深化の基盤を招く情報学研究」の 研究項目A03: 「人間の情報処理の理解とその応用に関する研究」の公募研究からも 大いに示唆を得られると考えられる。 例えば、体制感覚野と運動野の自己組織化や、 ミラーニューロンの計算モデルに基づく行動と言語の相互発達の研究などの成果は、 多少の拡張により本研究の遂行にも適用できるようになる可能性がある。 動作の生成におけるアイディアとしては、 センサフィードバックの制御系を質を問わず何らかの形で構築し、 その制御系の誤差を減らすようにフィードバック誤差学習により フィードフォワード制御系が適応的に作られるような形で 構成することができると考えている。
人間の情報処理の仕組みを模してロボットシステムを構築しようという試みは これまでに各種行われてきているが、 本研究では、十分な複雑性を有するボディ (8種類400以上のセンサと視聴覚・96のアクチュエータによる 全身腱駆動ヒューマノイド) を実際に設計・製作し、 実データに基づいて行うという点に特色がある。 これまでに提案されている手法の実機によるトライが可能で、 その上に実機ならではの新たな知見を加えてゆくことが期待できる。
センサベーストな自己モデルを 自動的に形成する手法を確立することができれば、 厳密に製作された機械でなくても適切にセンサを設置することにより その機械を制御することが可能になる。 これは、人間や生物の情報処理法に学んだ、 これまでの設計・制御のパラダイムを根本から変える方法論になる。